フルーティな香りのものや原料のパンチが効いたものまで、趣向を凝らした銘柄が続々と登場している焼酎シーン。食卓を囲んで楽しめる焼酎ももちろん大好きだけど、ゆっくり腰を据えて飲みたくなるのは、やっぱり「樽熟成焼酎」です。SHOCHU NEXTでもこれまでたくさんの樽熟成焼酎をご紹介してきましたが、ここでもう一度その魅力について再確認! 樽の歴史や、樽熟成の仕組み、樽の種類など、「樽」のことを中心に、樽熟成焼酎をおさらいしてみます。
やっぱり樽熟成焼酎が好き!| 樽熟成の歴史と仕組み、おすすめの樽熟成焼酎をおさらい -目次-
- 「樽」はいつ生まれた?
- どうやって樽熟成するの?
- 樽材の成分が甘い香りを生む
- 樽熟成を深める「チャー」の役割
- 木材と酒によって変わる樽熟成
- 樽に使う木の種類と樽熟成焼酎
- 入っていた酒で異なる樽の特徴
- まだまだあるぞ! 樽熟成焼酎!
「樽」はいつ生まれた?
焼酎をはじめ、ワイン、ウイスキー、ブランデーなどなど、世界的に、お酒の熟成に欠かせない木樽。その始まりには諸説ありますが、いちばん有力なのは2000年以上前の古代ヨーロッパ、フランス西部の森林で遊牧生活を行っていたケルト民族とされています。英語で木樽を意味する「barrel」は、ケルト語の「baril」が転じたもの。その後ローマに伝わり、紀元100年頃には現在と同じ形の樽が流通していた記録が残っています。豊富に採れた木材からつくられ、耐久性もあり、お腹の部分がちょっと太っちょな形で一人でも転がして動かせる。2000年変わらないあの木樽には、先人たちの知恵が詰まっているのです。
蒸留酒の熟成に樽が使われ始めたのは1700年頃。高い税を逃れるために山奥にウイスキーを隠しておいたという説や、船に載せていたのブランデーが長い航海の途上でたまたま熟成していた説など、その誕生の背景には、こちらもさまざまな説があります。いずれにせよ、樽が2000年近い歴史を持つことに比べると、蒸留酒の樽熟成は比較的新しい技術なのです。
日本でも古くから焼酎や日本酒、醤油づくりに木樽が使われてきました。とはいえ形状は西洋の樽とは異なり、木板を竹で縛った円筒状のもの。洋樽が日本に入ってきたのは江戸時代末期から明治時代初期の1800年代。洋酒とともに伝わったと考えられています。
そうしてさらに時代を下り、1950年頃。焼酎の樽熟成がいよいよ始まります! 先鞭をつけた小正醸造の樽熟成米焼酎〈メローコヅル〉や田苑酒造の樽熟成麦焼酎〈田苑 ゴールド〉を筆頭に、さまざまな樽熟成焼酎が誕生しました。
小正醸造の〈メローコヅル〉と田苑酒造の〈田苑 ゴールド〉はこちらの記事で詳しく紹介しています!
どうやって樽熟成するの?
樽熟成焼酎の大きな特徴はといえば、琥珀色をした液体と濃厚な香り。はじめは無色透明なのになぜ樽で寝かせるとこのような変化が起きるのでしょうか?
樽材の成分が甘い香りを生む
ご存じの通り、樽は木でできています。樽熟成特有の香りや色は、樽材の成分によるもの。ステンレスのタンクや、陶器の甕による熟成の場合は、同様の変化は生まれません。甘い香りのもとになるバニリンや、味に深みを与えるポリフェノールなど、木材に含まれるさまざまな成分が長い時間をかけて焼酎に溶け出すことで、味わいや香りの変化を産むのです。
樽の成分が溶け出すのに加えて、原酒の雑味を取ってくれるのも樽熟成のメリット。木の細かな気孔から入る酸素によって、雑味の素になってしまう硫黄化合物が酸化。これらの成分は、エタノールを中心とした揮発成分とともに樽の外へと抜けていきます。蒸散する量は、熟成場所の環境や気候にもよりますが1年に約2%。樽で熟成する時間が長いほど、原酒の量は減っていくのです。しかし、その分原酒の味は磨かれていく。「天使の分け前」と呼ばれるこの現象は、樽熟成には欠かせないものでもあります。
樽熟成を深める「チャー」の役割
焼酎の熟成に使われる樽の内側は真っ黒に焦げています。樽を焦がす加工、「チャー」は、熟成を促すためになくてはならない工程です。
「チャー」の役割のひとつは原酒の雑味を取り除くこと。炭化層が雑味のもととなる硫黄成分を効率良く吸収するため、原酒が持つ良い香味成分がはっきりを感じられるようになります。もうひとつは、樽自体が持つ香りを調整する役割。そのままの状態だと強い木材の香りを焦がすことによって抑えることができます。さらに、木の細胞壁をつくるセルロースは、加熱することで果実やナッツのような甘い香り成分に変化。これが焼酎に溶け出して、複雑な味わいを生み出しています。
樽の中をごうごうと燃やす光景は豪快に見えますが、焦がす度合いによって香りのバランスが変わるとても繊細な作業で、樽職人の腕の見せ所。原酒の味わいと樽の香り、そのどちらも押し上げる重要な役割を「チャー」は担っているのです。
木材と酒によって変わる樽熟成
「アメリカンオーク樽で3年以上熟成」
「バーボン樽で5年以上熟成」
樽熟成焼酎には、このような説明をよく見かけます。「アメリカンオーク」は木材、「バーボン」はウイスキーのジャンル。ひとえに「樽」と言ってもさまざまな呼び名があります。樽が違えば、もちろん焼酎の味わいも違うもの。木材、その樽に以前入っていたお酒。2つのカテゴリーで、樽の種類と焼酎を紹介します。
木材と酒によって変わる樽熟成とおすすめの樽熟成焼酎
- 樽に使う木の種類と樽熟成焼酎
- アメリカンホワイトオーク:〈太久保ホワイトオーク〉
- フレンチオーク:〈桜明日香グランデ フレンチオークバレルエディション〉
- ミズナラ:〈栃栗毛 MIZUNARA スピリッツ〉
- 栗:〈らんびき LIMITED 栗〉
- 桜:〈サクラ樽熟成「麦」7年 野海棠 そよめき〉
- 入っていた酒で異なる樽の特徴
- シェリー樽:〈樽 いきいき〉
- バーボン樽:〈神喜の目醒め バーボン樽熟成〉
- ブランデー樽:〈夜明 ブランデー樽〉
樽に使う木の種類と樽熟成焼酎
①アメリカンホワイトオーク
アメリカンホワイトオークは、北米で採れるナラの一種。バニラやはちみつのような甘い香り、ナッツを思わせる香ばしさが特徴です。最もメジャーな樽材として、バーボンを中心としたウイスキーの熟成によく使用されます。
アメリカンホワイトオーク樽で熟成した焼酎はこれ!
〈太久保ホワイトオーク〉|太久保酒造
鹿児島県志布志市の太久保酒造がつくる樽熟成芋焼酎〈太久保ホワイトオーク〉。3年以上熟成した原酒を、アメリカンホワイトオークの新樽でさらに熟成。甘やかなバニラ香と芋のフルーティな味わいが優しく交わった一本です。アルコール25度で飲みやすく、炭酸水で割ればさらりと飲み進められるハイボールに。初めての樽熟成焼酎としてもおすすめです。
太久保ホワイトオーク |
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【芋焼酎】 貯蔵 3年以上熟成したのち、アメリカンホワイトオークの新樽で1年以上追加熟成 度数 25度 容量 1800ml 700ml 原材料 さつまいも・米麹(国産) 蒸留 常圧 蔵元|太久保酒造 WEB→ 所在地|鹿児島県志布志市 |
②フレンチオーク
ヨーロッパ産オークの代表、フレンチオーク。別名「セシルオーク」とも呼ばれ、フランスのトロンセ、アリエ、リムザン地区に多く生育しています。古くからワイン、コニャックの熟成に使われてきましたが、最近では焼酎やウイスキーの熟成にもよく使用されています。アメリカンホワイトオークに比べ、タンニンが多く、甘い香りは控えめ。スパイシーかつ味わいに深みのある酒質につながります。
フレンチオーク樽で熟成した焼酎はこれ!
〈桜明日香グランデ フレンチオークバレルエディション〉|紅乙女酒造
ごま焼酎〈紅乙女〉でよく知られる福岡県の紅乙女酒造。〈桜明日香グランデ フレンチオークバレルエディション〉は、アリエ地区で採れたフレンチオークの新樽で熟成した原酒をベースに、長期熟成酒をブレンドした麦焼酎です。柔らかな麦の香りと、フレンチオークの爽やかな樽香が絶妙にマッチ。一口飲むと、華やかな香りが鼻を抜けていきます。
桜明日香グランデ フレンチオークバレルエディション |
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【麦焼酎】 貯蔵 アリエオークの新樽で熟成した原酒に、3年以上の長期貯蔵酒をブレンド 度数 25度 容量 1500ml 500ml 原材料 麦(国産)・米麹(国産) 蒸留 減圧 蔵元|紅乙女酒造 WEB→ 所在地|福岡県久留米市 |
③ミズナラ
「ジャパニーズオーク」として世界の蒸留酒づくりでも注目を浴びる、日本の固有種のミズナラ。水分を吸収しやすく、原酒が染み出さないよう加工するには高い技術が必要とされています。新樽では木の生っぽい香りが強く、2〜3回繰り返し使用することで、お香を思わせるオリエンタルな香りに変化していきます。
ミズナラ樽で熟成した焼酎はこれ!
〈栃栗毛 MIZUNARA スピリッツ〉|柳田酒造
蒸留器のカスタマイズにかける情熱などから、“焼酎界のエジソン”なんて声も聞こえてくる宮崎県の柳田酒造。〈青鹿毛〉や〈千本桜〉など数々の人気銘柄をてがけるこの蔵の樽熟成の名品が〈栃栗毛 MIZUNARA スピリッツ〉。2020年まで本格麦焼酎として発売していましたが、光量規制との兼ね合いで2021年からはスピリッツとして展開しています。41度と高アルコールながら、舌触りはとてもなめらか。ミズナラ由来の瑞々しい樽香が麦焼酎の力強い味わいを包み込む、樽熟成焼酎の濃厚さをしっかり感じられる一本です。
栃栗毛 MIZUNARA スピリッツ |
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【麦焼酎】 貯蔵 ミズナラ樽で1年熟成 度数 41度 容量 720ml 原材料 麦焼酎(国産麦・米麹) 蒸留 減圧 蔵元|柳田酒造 WEB→ 所在地|宮崎県都城市 |
④栗
ナラ(オーク)の他にもさまざまな木が樽材として使用されています。その代表格が日本人にもなじみの深い栗の木。ヨーロッパでは古くからワインの輸送や貯蔵用に使われ、最近では焼酎の熟成にも採用されています。特徴は豊富なタンニンと、コクのある甘み。ナラ材とは異なる、ほっくりした味わいを生み出す樽材です。
栗樽で熟成した焼酎はこれ!
〈らんびき LIMITED 栗〉|ゑびす酒造
1885年、福岡県で創業したゑびす酒造。好評を博した樽熟成シリーズ〈らんびき SHINY GOLD〉や〈ゑびす蔵〉など、熟成焼酎にこだわり続ける老舗の蔵元です。秋冬限定の〈らんびき LIMITED 栗〉は、麦麹と米麹の全麹仕込みの麦焼酎。ホーロータンクで3年間熟成を経た後、国産の栗樽で2年熟成。全麹によるたっぷりした旨み、栗樽由来の深い香りが口いっぱいに広がる味わいです。
らんびき LIMITED 栗 |
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【麦焼酎】 貯蔵 ホーロータンクで3年間熟成した後、栗樽で2年間熟成 度数 41度 容量 720ml 原材料 麦こうじ(九州産二条大麦)、米こうじ(国産米) 蒸留 常圧 蔵元|ゑびす酒造 WEB→ 所在地|福岡県朝倉市 |
⑤桜
日本特有の樽材として使われる桜の木。加工が難しいために樽には不向きとされてきましたが、加工技術の向上によって、採用する蔵が増えてきています。木香は控えめで繊細。オークにはない、桜餅やバラを思わせるフローラルな香りをつくり出します。
桜樽で熟成した焼酎はこれ!
〈サクラ樽熟成「麦」7年 野海棠 そよめき〉|祁答院蒸溜所
鹿児島県の祁答院(けどういん)蒸溜所が手がける麦焼酎〈サクラ樽熟成「麦」7年 野海棠 そよめき〉。手づくりの麦麹と木桶仕込みでできた原酒は優しく丸みのある口当たり。長期貯蔵した後、桜樽でフィニッシュ。飲み心地はよりなめらかに、爽やかな樽香と麦本来の香ばしさが感じられる麦焼酎になっています。
サクラ樽熟成「麦」7年 野海棠 そよめき |
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【麦焼酎】 貯蔵 長期貯蔵後、桜樽で合計7年間熟成 度数 40度 容量 720ml 原材料 麦(国産)、麦こうじ 蒸留 常圧 蔵元|祁答院蒸溜所 WEB→ 所在地|鹿児島県薩摩川内市 |
樽の“履歴”も味をきめる!
樽は一度きりではなく、数回にわたって使い回されます。以前に入っていたお酒は樽の木材にじっくりと染み込んでいますから、そこに焼酎を入れると、元々のお酒の香りや味わいにも変化があるということ。焼酎の熟成にもよく使われるシェリー樽、バーボン樽、ブランデー樽はそれぞれ以前に入っていたお酒の種類を指します。それら樽の“履歴”による特徴を見ていきましょう。
①シェリー樽
樽熟成焼酎で最もよく見かけるのはシェリー樽。スペインの精製強化ワイン「シェリー」を詰めた樽で、焼酎以外にもウイスキーやラムなどさまざまな蒸留酒の熟成に利用されています。シェリーのなかでもフィノ、オロロソ、ペドロ・ヒメネスなど細かい種類があり、ドライレーズンやスパイスの香りが立つものから、濃厚な甘さが出るものまで多岐にわたります。
シェリー樽で熟成した焼酎はこれ!
〈樽 いきいき〉|豊永酒造
球磨焼酎の豊永酒造も、個性的でバランスのいい樽熟成を行う蔵のひとつ。〈樽 いきいき〉は、シェリー樽で3年以上熟成した原酒をブレンドした米焼酎です。25度ながらコクはしっかり。シェリー樽のプルーンを思わせる果実香と、米由来のふくよかな旨みが、抜群の飲み心地をつくり出しています。
②バーボン樽
アメリカでつくられるバーボンウイスキーを入れていた樽は、はっきりとしたバニラやカラメルの甘い香りが特徴。原酒本来の味わいを損なわないため、焼酎の熟成にも採用されています。
バーボン樽で熟成した焼酎はこれ!
〈神喜の目醒め バーボン樽熟成〉|朝日酒造
奄美群島の最東端、喜界島に蔵を構える朝日酒造。〈神喜の目醒め〉はシェリー樽、ブランデー樽、赤ワイン樽、スコッチ樽、ラム樽、バーボン樽の6種類の樽違いの黒糖焼酎がラインナップ。なかでもバーボン樽熟成は、チョコレートのようなビターな風味と、重厚な甘みや香ばしさが特徴。原材料には地元産の黒糖をたっぷり使用し、タンクと樽で合計10年以上熟成した、手間暇のかかった黒糖焼酎です。
神喜の目醒め バーボン樽熟成 |
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【黒糖焼酎】 貯蔵 タンクで10年以上熟成した後、バーボン樽で2年熟成 度数 42度 容量 750ml 原材料 黒糖(自家製喜界島産)、米こうじ(国産) 蒸留 常圧 蔵元|朝日酒造 WEB→ 所在地|鹿児島県大島郡 |
③ブランデー樽
ブランデーは、ぶどうや洋なし、リンゴなど果実を原料にした蒸留酒の総称。原材料や地域によって、コニャック、アルマニャック、カルヴァドスなどさまざまな種類があります。ブランデー樽は、原料由来の果実味、スパイシーな香りが濃厚。シェリー樽やバーボン樽とは異なるアロマティックな風味を加えます。
ブランデー樽で熟成した焼酎はこれ!
〈夜明 ブランデー樽〉|老松酒造
創業は1789年。麦焼酎〈麹屋伝兵衛〉をはじめ、長期熟成焼酎を多く手がける大分県の老舗蔵、老松酒造。2021年に発売した〈夜明 ブランデー樽〉は、大麦、大麦麹で仕込んだ原酒を14年間ブランデー樽に貯蔵。樽出し原酒の濃厚さが味わえる、贅沢な麦焼酎です。色を残すためリキュールとして展開していますが、麦焼酎の香ばしさはもちろん健在。一口飲むと、ブランデーの華やかな果実香とウッディな後味が口いっぱいに広がります。
まだまだあるぞ! 樽熟成焼酎!
樽の種類だけではなく、焼酎の原料やつくりの違いによってバラエティ豊かな味わいを生み出す樽熟成焼酎。さらに熟成年数やブレンドも違うとなると……その可能性は無限大! これまで紹介してきた数々の樽熟成焼酎もチェックすれば、その奥深さにどんどんハマっていくこと間違いありません!